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vol.1: 南アルプスを教室にする【静岡大学】

「授業」をつくるところから始まった

「ちゃんとした授業なんて、したことがない。」

当時、静岡大学からお話をいただいた時に最初に感じたのは、そんなことだった。
2024年の秋に始まったプロジェクトも、今では年間8コマ程度の授業と、1泊2日のフィールドワークを年2回実施するまでになった。私たち自身もまだ試行錯誤の途中ではあるが、少しずつ授業と成果の質を高めようとしているところだ。
こちらから背伸びして何か教えようとするよりも、南アルプスの環境に行く自体が学生達に良い影響を与えられるのではないかとも思った。

この授業の大きなテーマは「共創」。
静岡大学グローバル共創科学部では、それを「コラボラティブ・ワークス」と呼んでいる。人文・社会科学から自然科学まで、異なる興味や専門性を持つ学生が集まり、実際の社会課題に向き合う。そのフィールドの一つに、私たちの南アルプス井川山林がある。
「共創」という言葉から、私たちも一つのことを考えた。
学生のためだけに用意された課題ではなく、私たち自身が実際に抱えている課題をテーマにできないだろうか。企業が抱える課題と、自然環境が抱える課題。その両方に向き合うこと自体が、学生の学びにならないだろうか。そしてその学び自体がネイチャーポジティブに資するのではないだろうか。
そう考えてフィールドに選んだのが、井川山林にある「鳥森山」である。
鳥森山は標高1,571m。南アルプス南部の登山拠点である椹島のすぐ横にある小さな山である。主要な登山ルートから外れているため、登山者が立ち入ることはほとんどない。過去の伐採の影響も比較的小さく、ブナの大木をはじめとする古い森が残っている。

一方で、森の中を歩いてみると気になることがある。下層植生がとても乏しいのである。
場所によっては、次の世代を担う稚樹も十分とはいえない。この状態が続けば、この森は100年後にどのような姿になっているのだろうか。森が持つ生態系サービスと呼ばれる機能が失われる恐れもある。
さらに、下層植生の乏しさに加えて、地質や気象などさまざまな要因が重なり、地表が安定していない場所もある。そのため散策道の状態も決して良いとはいえない。
そして「鳥森山」という名前でありながら、森を歩いていて鳥や昆虫を目にする機会もそれほど多くない。かつては鳥森山の麓にある椹島周辺には多くの鳥が訪れていたとも聞いている。
そこで、この鳥森山が抱えている課題そのものを教育の場にできないかと考えた。

なぜ下層植生が乏しいのか。
どうすれば植生は回復するのか。
植生が回復すれば昆虫が集まり、その先に鳥も増えていくのではないか。

もちろん、まだ答えは分からない。だからこそ、学生と一緒に調べる意味がある。
まずは、鳥森山の未来の姿を考えることから始めた。

鳥森山という名前の通り、鳥の声を聞きながら歩ける森にしたい。
バードウォッチングを楽しめるくらい、多様な鳥が訪れる場所になってほしい。
足元にはさまざまな植物があり、植物が好きな人にとっても面白い森であってほしい。
森の特徴を伝える解説サインやガイドブックがあり、登山経験の少ない人でも安心して歩ける散策道がある。
そして、そこでネイチャーウォークを行い、歩きながら南アルプスの自然について学ぶことができる。

そんな場所にできないだろうか。

大枠の構想は持ちながらも、できる限り具体的な計画は学生自身に考えてもらいたいと思っていた。
その作業こそが「共創」なのではないか。学生同士の共創であり、学生と企業の共創でもある。全てが手探りでもあった。

さらに、鳥森山では別のプロジェクトによる自然環境の調査も進めている。
学生たちの活動がその調査を補完し、そこで得られた外部の知見がまた学生たちの学びに還元される。
そんな関係をつくることができれば、共創の輪はさらに広がっていき、大学の枠を超えて外部にも共創の輪を広げることだってできる。

そして、鳥森山だけでなく、この授業そのものにも一つの未来像を描いた。

何年先になるかは分からない。
それでもいつか、この授業を経験した学生が、新しく入ってきた後輩を鳥森山でガイドできるようになってほしい。
そのためには、毎年の学生たちが鳥森山の特徴を少しずつ明らかにし、その知識を次の学生へ引き継いでいく必要がある。
ガイドブックを毎年アップデートし、散策道も少しずつ歩きやすく、楽しいものにしていく。

そうして蓄積されたものが、いつか一つの「ネイチャーウォーク」になり、先輩から後輩へ受け継がれていく。
かなり大風呂敷なプロジェクトである。
でも、壮大であればあるほど、やる気も出た。
そこから、今できることを逆算した。
鳥を増やすためには何が必要なのか。まず考えたのは植生の回復である。しかし、そもそもなぜ現在の植生が乏しいのか、その原因はまだ十分に分かっていない。

ニホンジカによる採食圧も一つの要因として考えられる。しかし、鳥森山にどの程度のシカがいて、それが季節や年によってどう変化しているのか、私たちは十分なデータを持っていなかった。

であれば、まずデータを取るところから始めるしかない。
そして、いつか本当に鳥が増えたのかを確かめるためには、鳥についても今の状態を記録しておかなければならない。

もう一つの軸が、散策道である。
どれだけ面白い自然があっても、安全に歩くことができなければネイチャーウォークにはならない。自然環境について調べることと、人が安心して森に入れる環境をつくること。その二つを同時に進める必要がある。
こうして、「鳥が集まる森をつくる」というずいぶん遠い目標から逆算して、私たちはまず「森を知ること」と「森を歩けるようにすること」から始めることにした。

シカはどれくらいいるのか。
植物はどう変化しているのか。
鳥は本当に少ないのか。
そして、人が安全に森を歩くためには何が必要なのか。

答えは、まだほとんど分かっていない。
だからこそ、学生と一緒に考え、調べ、少しずつ形にしていく意味があるのだと思っている。
具体的に学生たちと何をしているのか。それは、次回のコラムで紹介したい。

【このプロジェクトを応援してくださる方へ】

私たちは、自然環境を通じた教育を長期的に続けていくため、本プロジェクトをご支援いただけるスポンサーを募集しています。
また、企業または大学で、このようなフィールドワークに関心をお寄せの方は十山㈱総務部宛にこちらからお問い合わせください。

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