vol.2:南アルプス“ミズナラ樽”プロジェクト
悶々とした日々。
※写真:熟成庫の中古樽
宮崎の職人さんにつくっていただいた精巧なミズナラ樽。バーボンやシェリーの中古樽と並べると正直初々しさを感じた。ただ紛れもなく、樹齢数百年のミズナラから生成された樽である。そのことを思い眺めると、その存在感は他とは比べものにならないが、それと同時に「惜しい」気持ちが込みあげる。熟成庫に足を運ぶと度々込みあげてくるこの感情は、蒸溜所から離れても消えることなく頭の片隅にこびりついて離れなかった。
悶々とした日々、二、三か月は続いただろうか。。。ただ、そんな日々を一転する出来事は突然訪れた。十山・井川蒸溜所の開設当初からお世話になっている炭焼きの金丸さんが、知る人ぞ知る「突板職人」と「宮大工」を紹介してくれた日であった。
母親のような。
突板職人と宮大工との出会いの話に入る前に、金丸さんのお話を少し。
静岡(駿河の国)はモノづくりの街として徳川、江戸時代から栄えてきた。伝統工芸も数多く、竹千筋細工にはじまり、雛具、漆器、下駄、和染、指物など、その精巧な仕上がりは高く評価されてきた。井川蒸溜所のある井川の地では、古くから「井川メンパ」という漆塗りの弁当箱があり、保存性や耐久性に優れ、木こりや猟師の必需品として使用されていた。
その静岡で竹炭職人として活躍する金丸さん。今や社会問題となっている放置竹林を新たな価値として活かす活動をしているパワフルな方。そして、南アルプスの大自然を活かそうとしている井川蒸溜所のモノづくりに共感いただいた一人である。漠然と樽づくりを思い描いていた私たちに、母親のように手を差し伸べてくれたのだ。
「ぜひ、会わせたい人がいる!きっといい繋がりになるはずだから。」
いつも前向きに、楽しそうに、この言葉をかけてくれる“お母さん”によって、井川蒸溜所の樽づくりは「つくりたい」から「つくる」に変わったのだと振り返る。
匠とつながる。
※写真:左/金原さん 右/杉山さん
南アルプスの水、南アルプスの木、南アルプスの熟成環境でつくる井川蒸溜所のウイスキーは「ユニーク」でありたい。金丸さんが繋げてくれたのは、ウイスキー界でユニークを目指す井川蒸溜所にとって、お手本となる方たちだった。
突板職人の金原さん。世界中を歩き回りながら突板に適した材を選木してきた眼光鋭い目利きである。世界中から指名される技術者、静岡が誇る匠である。
そして、伝統建築工の杉山さん(以下、棟梁と呼ぶ)。木材接合など卓越した技術で今年、静岡県の優秀技能者として表彰された匠である。現在は伝統技術継承のため、学生たちへの指導に熱が入る。
この二人との出会い・繋がりは、ミズナラ樽づくりをより堅実なものへと変えていく大きな節目となった。
そして、本プロジェクトの若きリーダーとの出会いに繋がったのだ。