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Vol.1:井川蒸溜所ラボ日記 ~フィルタリングの効果について~

初の樽出し

工場稼働から約1年半立った日のことです。

いよいよ、たった今の熟成状態を皆さんに見てもらおうという、「ラボシリーズ」の企画が立ち上がりました。井川蒸溜所にとって初めての樽出し。緊張もするし、テンションも上がります。
初めて樽出しするにあたってぜひ検討したいと思った事柄がありました。
ウイスキーのフィルタリングが、原酒にどの程度の変化をもたらすのか?という疑問へのテストです。

写真:樽出しを行う原酒選びの風景

通常、「チルフィル」という手法をとる場合、ウイスキーをごくごく低温、時に氷点下になるほどにまで冷やし、溶け込んでいる成分を析出させます。
その後固形化した成分を漉し取ることで、ウイスキー内に浮遊する固形物、オリや、濁りなどの基になる物が除去され、澄んだ、加水しても濁りの生じないウイスキーを造ることができます。

ですが、ここで除去されてしまう成分は、もともとウイスキーの味や香りとして感じることができるものであった可能性も多分にあるわけです。
いちウイスキーファンとして、ああもったいない、仮に濁っていたとしても、それってとっても美味しかったかもしれないのに!と思ってしまうことは、皆さんの想像にも難くないでしょう。

そこで、今回私たちが作った「ニューボーンノンピート2022」については、なるべく樽に入ったままの状態をお届けしたい、まるで樽から直接バリンチで汲みだしたみたいに。と思っていました。チルフィルは行わず、濾過は常温で粗め。樽の中の炭が仮にちょっと残っちゃったとしても、それでも“樽そのまま”の感じを大事にしたいと思ってできたお酒です。

思いとしてはそれでいいんですが、さて。ここで最初の疑問にもどります。
濾過って固形物をアミで捕まえる作業だよな。逆に言えば、液体が通るだけなら、アミの目が細かかろうが粗かろうが、液体に影響与えないんじゃないの?
これは確かめてみましょう、面白しろそうなので。
という訳で、テーブル試験の開始です。

今回準備したのは、2μ、3μ、10μ、30μ、50μ、70μのフィルター。

いずれもPP(ポリプロピレン)製です。これに無濾過の原酒を比較対象として用意して、フィルタリング後、テイスティングして味の変化を見てみよう、というものです。
ちなみに、自然落下式の濾過でやると時間もかかるし、フィルターを通り切れなかった残液も出そうなので、ポンプで真空を作って吸引濾過方式にしました。実際瓶詰めするときも、送液中の多くはポンプで圧を掛けるでしょうからその方がよりリアルな環境に近そうです。

写真:実験の様子​

果たして結果は。
数値化するのが難しい内容なので、あくまで官能です。

予想以上にフィルタリングは味に影響を与えました。
まず、10ミクロン以下のフィルター3種では、酒の味、香りともに大幅に弱まってしまいます。ほのかに香るフルーツ感もごくわずかにしか残らず、甘みにも深みや複雑さがなくなりました。お酒の良さ、個性、魅力みたいな物がフィルタリングされてしまったようです。

これはいかん。
30μくらいになると、ああ、うちの酒だな。と分かる程度には個性的な部分が残っています。でも、もともとの原酒に比べると、ずいぶん声が小さくなっちゃったなぁ・・・という印象です。

50μ、確かにフィルターを通して失ったものはあるが、ぎりぎり許容できるかどうか、といったラインまで来ました。もう一息。

70μ。これなら樽の中に入っていた状態に限りなく近い状態で製品にできる。多少樽の中のおこげがフワフワ浮いているのも見えるけど・・・

50μと70μの決勝戦という形ではあるんですが、もちろん、結果は考えるまでもなく決まっていました。今の原酒の状態を、なるべくそのままの形で伝えたいというのが今回のラボシリーズのコンセプトですからね。

この結果をもって、今回のお酒は常温で70μのPPフィルターを通して作られ、リリースされました。瓶に詰めて製品化する工程でも味が変化しうるという、とても大事なことが学べたと思います。

さて、この経験を受けて今後の展開ですが、PPというフィルターの素材が味・香成分の吸着を起こしているのであれば、他の素材だったら細かい目でも味の変化はないのかもしれない・・・
これは素材を変えてもう一回実験してみると面白いかもしれないぞ。

蒸溜所の実験は、まだまだ続きます。

 

 

 

 

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