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ミズナラ炭を通じた出会い

十山㈱が発足する前の話になる。2019年の3月に大きな出会いがあった。竹の炭焼きを専門として営む金丸正江さんとの出会いだ。
このご縁が今の私たちの活動につながる土台であり、私たちは人とのご縁で成り立っている。出会いの発端は、私たちがミズナラの炭が出来ないか模索していたことに始まる。

ミズナラとは何か

写真:南アルプスのミズナラの大木

 

ミズナラという樹木はナラの仲間で大きなドングリが生る落葉広葉樹に分類される。
ミズナラはジャパニーズオークと呼ばれ、今日ではウイスキーの樽材として世界中で評価されており、業界では「MIZUNARA」で通じるほどだ。
産地は北海道に代表され、寒冷地に多い樹種なのだが、私たちの井川山林は標高が高いことからミズナラが自生している。井川社有林では、江戸時代から続く林業から樹木を伐採した時期も長かった一方で、ミズナラの木は樽に適した直径80cmを超える巨木が多数残っている。林業を行っていた場所にもかかわらず、なぜ樹齢数百年のミズナラが数多く残っていたのか。その辺りの理由も大変興味深い。
このあたりの話は樽プロジェクトのコラムに譲るとして、本コラムではミズナラ炭や金丸さんとの出会いのお話をしたい。

ウイスキー事業が始動した頃、ミズナラの巨木が台風などの影響で倒れた一件があり、そのままでは朽ちるだけのものをもう一度活かせないだろうかと、自社材で樽を作る構想があった。南アルプスの湧き水から産まれたウイスキーを南アルプスの樹木で包み、それらが産まれた環境下で眠らせることが出来たらどんなに美味しい物ができるだろうか。そんなことを考えていた。
ただし、ミズナラ樽は木材の良いところを贅沢に使用することから、残材が多く発生する。その残材を上手く活かせないだろうか。いただいた命を全て活かしてあげられないだろうか。そんな想いがあった。
それらを炭に変えられないか検討したのが金丸さんとの出会いの始まりだ。

ウイスキーと炭

テネシーウイスキーは、ジャックダニエルに代表されるウイスキーの一種であるが、産地や製法など定義が厳密に定められている。テネシーウイスキーはバーボンの定義に加えて、さらに取り決めがあるその中の一つに、チャコールメローイングという工程を含んでいる。これは、メープルシロップで知られるサトウカエデの木炭を濾材として原酒をろ過することが定められている。チャコールメローイングの行程を含むことで、実際に科学的にどのような変化がもたらされているか長い間解明されていなかったが近年研究が進んでいると聞く。テネシーウイスキーの香りや味わいはこの工程によって、サトウカエデ由来の香りを与えることや、原酒の好ましくない香りを取り除くことで仕上がっている。

私たちは、このチャコールメローイングをミズナラの炭で行ってみてはどうか。そんなアイデアが出てきた。
テネシーウイスキーのようにニューメイクを一滴一滴ミズナラ炭でろ過を行い、樽に詰めるとどうだろうか。もしくは、熟成されたウイスキーをミズナラ炭でろ過するとフィニッシュとしてどうだろうか。
美味しくなるのか、変化があるのか、実際にはそこが重要であることは分かりながらも私たちの夢は広がる一方だった。試したいと思った。

金丸さんとの炭焼き

そのような動機からミズナラ炭に興味を持っていた。
そして、静岡県で炭焼きを現在も続けられている方をご紹介いただき、金丸さんと出会うことができた。金丸さんは、静岡に来る前は東京で働いていた、いわゆるキャリアウーマンであった。そんな女性がなぜ炭焼きに魅せられたのか。

金丸さんの言葉を今でも覚えている。
昔、人と自然はバランスしていた。里山に住んでいた人々は森の木を伐り、炭を作り生活をしていた。そして炭焼きから出る煙は人家へ獣を寄せ付けず、木を伐ることで意図せずとも間伐が行われ適度に光が入り森も豊かになっていた。そして昔は植林地ではなく雑木林であったことから炭焼きに適した広葉樹が生えており、獣の食べ物となる木の実もたくさんあった。
そのような生活が長らく続き、獣と人々が住む場所が上手く調和していた。
それが今では放棄され荒廃した植林地の森の中で獣の食べ物も減り、煙による知らせも無く、お互いのボーダーラインが曖昧になってきている。さらに、現在の静岡では放置竹林が問題となり、ますます雑木林や植林地を竹林が蝕んでいた。
この話は私の自然観に大きな影響を受けた。

そんな想いのある金丸さんに、私たちの想いやミズナラ炭への興味をお伝えすると、共感してくださり協力をしてくださることとなった。そのお気持ちに心から感謝すると共に、何かお返ししたく私たちは竹の伐採や炭焼きを励むこととなった。
その炭焼きの中で、竹炭とともにミズナラの残材を窯にくべて焼いていただいたところ、ミズナラの炭は見事に出来上がった。

出来上がったミズナラ炭

 

実際には炭が必要になるのはまだまだ先のこと。
そして、焼き加減も適正なのか、焼く以前に材料の状態が適正なのか、まだまだ研究が必要だったが、そんなことも忘れてしまうくらい一緒に活動をしたり、色々な人と出会うきっかけをいただいた。
この出会いが様々なプロジェクトに繋がってくる。今では、ミズナラの炭焼きは心の片隅にありつつも、まずは皆さんに、このご縁から始まるストーリーをご紹介していきたい。

 

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