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十山が考える守り方


自然の捉え方は人それぞれ

一口に「自然を守る」と言いますが、自然も人との関係によって様々です。
自然を守るための人の関わり方も様々になります。例えば、アマゾンの原生林と日本の田園風景とでは、その状態を守るための人の関わり方が全く異なります。そもそも、田園は自然ではなく人工です。そして恐らく多くの人々が自然と捉えていると思います。
「木を見て森を見ず」という言葉があります。物事の一部分だけを見て全体が見えていないことの例えですが、このように人による自然の見方の違いとして視野の広さがあります。広い視野でマクロ的に見るということは、南アルプスとして見る、または森や高山帯として見る、生態系として見るということです。一方で、沢の一部やある範囲に分布する動植物に集中するというミクロ的な見方もあります。もちろん、それらの中間的な見方もあります。
そして、自然は時間とともに変化します。この時間の捉え方によっても自然の見方が変わってきます。私たちが今見ている自然は、変わりつつある自然の今の状態です。私たちの生活は年単位で区切られることが多く、自然の見方も四季や長くても20~30年になりがちです。しかし、森林の遷移や地形地質を考えるときには、当然もっと長い時間で考えることになりますし、たった今の状態の評価も変わってきます。
こうした自然の見方は、理科的な自然と社会環境が重なっていることを背景に、その人その人の日常的な自然への接し方や価値観、その時の感情によって様々で、同じ物を見ていてもそれをどう評価するかも様々です。

ワイドイメージ

井川社有林の森林

History of Ikawa Forest

井川社有林の歴史を振り返ると、江戸時代に幕府による伐採が行われました。そして、私たちの前身である東海紙料創業から昭和初期にかけて、大井川本流付近を中心に大規模な木材生産を行いました。第二次大戦中は生産量が減少しましたが、その後も西俣、東俣の源流部に範囲を広げ木材生産を行いました。しかし、円の変動相場制導入や人件費の上昇などにより井川社有林材は競争力を失いました。こうしたことから、木材生産を目的とする伐採は昭和57年以降行っていません。
これらの伐採跡地は、40年から100年以上が経過し旺盛な稚樹の成長力によって今では森林が回復しています。また、昭和30年台後半から40年台前半にかけては拡大造林政策に則り、大井川本流付近で針葉樹人工林の造成を行いました。これらの人工林も、植林から50年以上が経過したこと、間伐などの保育作業を行ってきたことから森林として回復しています。
ただ、井川社有林を木材供給地として見た場合、奥地山岳林で搬出路などの整備がされていないことなどから一般用材は他産地との競争力に劣ります。特定樹の指名買いのような場合や支障木として伐採された木を有効活用するような特別な場合を除き、木材生産は行っていません。

65%を自然保護地区とする
基本計画を設定

Nature Reserve

私たちは、マクロな視点から、高山帯や原生度が高い各沢の源流部など、国立公園指定地を超える井川社有林の約65%を自然保護地区としました。ここでは、現存の登山道や登山小屋などにかかる整備を除き、伐採をはじめとする人為的な影響を極力排除することで保護するものです。「積極的放置」とも言えますが、経済的価値よりも情緒的価値を優先し、旺盛な自然の回復力によって原生的な森林を取り戻そうとするものです。
ミクロな視点では、崩壊地の周辺など林地保全上特に重要な場所として、井川社有林の約5%を林地保全地区に指定しました。こちらも基本的に禁伐とすることで、崩壊地の拡大防止や土砂災害の未然防止や減災をはかるものです。井川社有林には崩壊地が多数あり、これらは地殻変動にともなう隆起や氷河期の地下水の凍結などが原因で、森林の公益的な機能で防げる水準のものではありません。しかし、人間的なタイムスケールでは微力ながら効果があると考えています。
他にも登山道の浸食やトイレ、登山小屋の排水、希少な動植物の保護などの問題があります。そして、私たちの先輩が残した林業の痕跡もあります。登山道の浸食や登山道の排水は利用とのバランスも重要であり、両立できるように保全対応をグループ会社の特種東海フォレストをはじめ、行政とも連携して対策に取り組んでいます。
私たちは、森の視点と木の視点の両方をバランス良く取り入れ、井川社有林の自然を守ってまいります。

リニア工事への対応

Stance for the Constraction

井川社有林内ではJR東海によるリニア中央新幹線のトンネル工事が計画されています。

JR東海からこの申し入れがあったとき、私たちはリニアという文明の発展、利便性の向上と井川社有林の自然環境の変化とそれに伴う動植物種の変化という根本的な価値葛藤、そしてリニア工事に付帯してJR東海が行う地域貢献、さらに私たちの収益面への影響について検討に検討を重ねました。
そうして私たちは、リニアはわが国における次代の重要な社会基盤であり、その他条件と比較しても受け入れるべきと考えて協力するという判断をしました。

しかし、この工事については現在静岡県とJR東海との間で大井川中下流域の水資源の問題や井川社有林内の動植物に対する影響の問題で調整がついておらず、未だ着工の見通しは立っていません。

JR東海は、私たちとの信頼関係に基づき、井川社有林の自然環境の保全に最大限の努力をしてくれるものと確信しています。また、私たちとしては、その実行状況を現地を確認し説明を求め、厳正に対応してまいりたいと考えています。

私たちのこれから

前述のとおり井川社有林ではかつて伐採が行われてきました。しかしそれでもわが国有数規模で原生的な自然が存在しており、これが井川社有林の価値であると考えています。
私たちとしては、その価値をさらに高めるように、南アルプスの保護保全に繋がる活動について、広く仲間を募りつつ活動を進めてまいります。

・ ライチョウや高山植物など、貴重な生物の保護
・ 登山道の維持管理および浸食防止
・ 登山小屋やトイレの排水対策の実施
・ 行政と連携した自然環境に配慮した安全施設整備
・ 市民、企業と連携した自然保全活動
・ 自然環境資産を守るための調査、研究活動
・ ガイドを通じた自然啓蒙活動
・ 利用者の安全性を担保できるアクセス

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