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vol.3:南アルプス“ミズナラ樽”プロジェクト

樽プロジェクトへ。

金丸さんの熱く、そして優しい後押しによって明確な目標となった「自社樽づくり」。この頃から、所内では「樽プロジェクト(樽P)」という共通言語になっていった。そして、このプロジェクトで成し得るものは何か?正直なところ、直感的に行動していたのは否めない、ただ井川蒸溜所や南アルプスに“プラスになる”という自信だけはあった。

今でこそ整理すると、このプロジェクトによって成し得たいことは以下であった。

・井川蒸溜所にしかできない美味しいウイスキーをつくる

・南アルプスを楽しみながら、守り、活かす持続的な地域活動にする

シンプルだが、決して簡単ではない。ただ、井川蒸溜所にはユニークな要素があり、その要素を大切にすればよいのだ。

南アルプスの“水”、“熟成環境”。そして南アルプスに自生するミズナラ、クリ、サクラなどの“木材資源”がユニークである。これらを活かした『自社材樽』をつくれたら、井川蒸溜所にしかできないウイスキーづくりの可能性を広げられると考えるのだ。同時に、この樽づくりを通じてより多くの方と南アルプスを楽しみたい。持続的に自然を守ることにも繋げていきたい。いつかは、南アルプスの樽が世界ブランドになることを夢見た。

想いは届く!?

ある日、金丸さんから一本の連絡をいただき、突板職人の金原さんと伝統建築工の杉山さんの元へ訪問した。南アルプスと十山という会社、そして井川蒸溜所や樽づくりについて話した日である。

二人は常に木と向き合っている。南アルプスの大自然で育ったさまざまな樹木、貴重なミズナラが自生していることを話し始めると、とても楽しそうな顔で私の話に耳を傾けていた。

そして、私は「ものづくりの街である静岡を牽引してきた職人、技術者と一緒に南アルプス材での樽づくりに挑戦したい。自然を守り活かす、持続的な静岡の新産業創出を目指したい。」と勝手ながら切り出した。二人の目は一瞬鋭くなったように見えたが、考えることもなく「よし、やろう!」と優しく、力強く受け入れてくれたのだ。井川蒸溜所のウイスキーづくりに共感いただき、私は素直に喜び、同時に安堵したのだった。

が、次の瞬間、棟梁の横で静かに話を聞いていた若者がその場の雰囲気を一転させた。

若者の名は「杉山和寛(以下、カズ)」。棟梁の息子であった。

冷静な物言い。

※写真:左 カズ、右:棟梁

「親父、やったことないだろ?出来るかわからないし、仕事として成立するかもわからない。安請け合いしたら逆に迷惑をかけることになるぞ。」

和杉を将来を担うの息子・・・冷静に先を見据えて進言。

「やったことあるわけねぇだろ。やってみないとわからねぇし、やらずに断るのか?この挑戦、面白そうじゃねぇか。」

棟梁・・・職人の心意気、引く気は一切ない。

重たく嫌な空気が続いた。会社の将来を担う息子の不安や心配を容易に想像できた私は、それ以上無責任なことは言えなかった。そして、決着はつかず、この日は解散することになった。

帰りの車中、今後のことを考えようとしたが、なかなか考えられなかったことを覚えている。

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